リテールメディアが広告手法として注目されるのはなぜ?効果と活用法を解説
リテールメディアは、小売業者(リテーラー)が自社で保持する実購買データやメディアを活用してコンテンツを提供し、消費者にパーソナライズされた情報や広告を届ける新しいコミュニケーション手法です。
従来のメディアコミュニケーションでは達成できなかった高精度なターゲティングが可能で、実購買データを基にしたコンテンツ・広告配信により、消費者の購買モーメントに最大限寄り添ったメッセージングが実現、日本でも大手ECプラットフォームが先行し、現在ではスーパーマーケット各社など日本全国のリテーラーの施策に注目が集まっています。
本記事では、リテールメディアの広告活用の特徴、具体的な活用事例、メリット・デメリット、さらには未来のトレンドまでを徹底解説します。
リテールメディアを広告活用する
リテールメディアで展開される広告では、リテーラーが保有する購買データや広告枠を活用して消費者に商品情報を届けることができます。これは、オンラインとオフラインの両方で展開することができ、リテーラーが保有する1st partyである実購買データを活用することで高精度のターゲティングが可能です。
リテールメディアの広告活用が注目される理由
- 実購買データを活用した高精度のターゲティング
リテーラーは消費者の購買履歴や行動データを蓄積しており、リテールメディア広告はこれを活用することが可能です。これにより、個別の消費者に最適化された広告配信が実現できます。例えば、ECサイトなどでは、消費者の検索履歴に基づく商品広告を配信し、広告経由の売上を大幅に増加させています。 - 売上に直結する広告効果
リテールメディア広告、なかでもインストア(店頭)やオンサイト(小売店アプリなど)で展開する種別のものは、購買モーメントの高い消費者に自然にリーチできるため、売上により影響を強める施策の展開が期待できます。リテールメディアの広告を通じて、特定商品の売上に影響を与えることも他の施策と比べると効果性が高いことも特徴です。
リテールメディアの広告と従来のウェブ広告の違い
上記のインストア(店頭)、オンサイト(小売店アプリなど)にとどまらず、リテールメディア広告は通常のインターネット広告のようにGoogleなどのプラットフォーム上にも広告を配信することができ、その配信広告をオフサイト広告と呼んだりします。このオフサイト広告は従来のウェブ広告(Google広告やSNS広告)と比較して以下の点で独自性を持っています。
- 実購買データに基づく精度の高いターゲティング
従来のウェブ広告がウェブページの閲覧履歴やウェブ上での行動データを主に活用しているのに対し、リテールメディア広告では、実際の購買履歴のデータを活用するため、ターゲティングの精度が高く、広告が売上に直結しやすい特徴があります。
- ROMI((Return on Marketing Investmentマーケティング投資対効果)の測定が可能
広告などマーケティング施策が起因した売上が測定できるため、広告への投資効果が明確になります。
リテールメディアで展開される広告の種類と特徴
リテールメディアには複数のタイプがあります。タッチポイントという観点から、外部ウェブサイト上でのタッチポイントであるオフサイト広告、リテーラー自身が運営するアプリなどのサービスをタッチポイントとするオンサイト広告、店頭で展開されるインストア広告の3つに大別することができます。
オフサイト広告
検索エンジンや動画サイトなど、リテーラーが自身で所有していないメディアに向けて広告を配信する広告です。リテーラーが保有する1st partyデータと接続した広告を配信します。
オンサイト広告
リテーラーが運営するウェブサイトやアプリなどで展開される広告です。過去の購買履歴などに基づいて精度の高い広告が消費者に配信されるため、広告効果が非常に高いのが特徴です。
インストア広告
小売店の店舗内で使用されるサイネージや店頭ディスプレイ、パンフレットやチラシといったプリントメディアなどを通じて展開される広告です。消費者の購入に対するモーメントが最も高まっているタイミング(=来店時)に商品やキャンペーン情報を提供することが可能で、消費者の購買意欲をその場で刺激し、また強い認知を形作ります。
リテールメディアの広告のメリットとデメリット
リテールメディアで展開される広告は、ターゲティング精度の高さやリーチのタイミングによって売上に直接効果を及ぼし、また強い認知を形成することができる点で他の広告手法を凌駕しています。しかし、課題も存在します。
メリット:精度が高い1to1ターゲティング
リテールメディアが注目される最も大きな理由は、1to1ターゲティングの精度が格段に向上している点です。小売業者が保有する購買データや行動履歴データを活用することで、消費者の興味や購買意欲に応じた広告配信が可能になります。例えば、過去に特定のブランドの商品を購入した消費者に対して、同ブランドの新商品を広告することができます。このようパーソナライズドされた広告は消費者にとって有用で、広告主にとっても効果的です。
メリット:ブランド認知の相乗効果を図ることができる
リテールメディア広告は、消費者が購入を検討する最終段階で広告を表示するため、ブランド認知を効果的に高めることができます。サイネージや店頭ディスプレイだけではなく、パンフレットやチラシといったプリントメディアなどを通じて来店者にリアルタイムで商品やキャンペーン情報を提供することでブランド認知の相乗効果を図ることができます。
デメリット:プライバシーとデータセキュリティ
リテールメディアの広告では、消費者の購買データの活用が不可欠ですが、プライバシー保護規制への対応が求められます。EUのGDPRやアメリカのCCPAは、データ利用に関する透明性を義務付けています。
リテールメディア広告の分析手法
リテールメディア広告施策の成功には、正確な効果測定とデータ分析が欠かせません。特に、マーケティング投資対効果(ROMI)やインクリメンタルの測定は、マーケティング戦略を最適化する上で重要です。この章では、それぞれの分析手法を詳しく解説します。
ROMI(マーケティング投資対効果)とは?
ROMI(Return on Marketing Investment)は、広告やマーケティング活動に投資した金額がどれだけの収益を生んだかを測定する指標です。リテールメディアにおける広告施策は、ターゲットとなる消費者IDに広告を配信し、その後配信された広告の商品を購入したのかの検証ができるため、ROMIの算出が可能です。
なぜROMIが重要なのか?
ROMIを活用することで、広告主は以下のメリットを享受することができます。
- 効果の明確化:
広告がどの程度売上に寄与したかが明確になるため、施策の取捨選択が容易になる。 - 予算の最適化:
どのキャンペーンが最も高い効果を生んだかを特定し、次回以降の予算配分に活用することができる。 - 説得力のあるデータ:
経営陣への広告投資の説明や承認を得るための材料となる。
ROMIの算出のためには、正確なデータ収集と分析が必要です。リテールメディアでは、購買データや行動データなどの活用が可能なため、透明性が高く、最適な広告運用でのキャンペーン管理が可能になります。
インクリメンタルとは?
「インクリメンタル」(incremental)とは、広告の効果や影響を測定する際に、その広告がなかった場合と比較してどれだけの追加的な成果が得られたかを評価する考え方です。これを「インクリメンタル効果」や「インクリメンタリティ」と呼ぶこともあります。 従来の指標(例えばクリック数やインプレッション数)は広告が「どれくらい見られたか」「どれくらいアクションがあったか」に焦点を当てていますが、それだけでは広告の「真の影響」を測ることができません。
インクリメンタルの分析が広告主に与える利点
リテールメディアでは、リテーラーが持つ膨大なデータを活用してインクリメンタルが計測でき、以下のメリットがあります。
- 純粋な広告効果の把握:
広告が消費者の購入行動をどれだけ促進したかを明確に把握できる。 - 広告投資の適正化:
インクリメンタル効果が低いキャンペーンを排除し、より効率的な広告運用が可能になる。 - 新規顧客の獲得状況を把握:
既存顧客ではなく、特に新規顧客の購入がどれだけ増えたかを特定するのに役立つ。
インクリメンタルの分析結果を活用することで、リテールメディアの広告の価値をより具体的に把握し、戦略的な広告活用が可能となります。
リテールメディアの広告の今後のトレンド
リテールメディアで展開される広告は、技術革新や消費者の購買行動の変化に伴い、さらなる進化が期待されています。今後の注目トレンドとして、AIの活用、音声アシスタントの普及、オムニチャネル戦略の進化について詳しく解説します。
オンラインとオフラインをシームレスに統合したオムニチャネル戦略
リテールメディア広告は、オンラインとオフラインの消費者の購入体験をシームレスに統合するオムニチャネル戦略の進化により、さらに効果的な顧客体験を提供します。
リテールメディアは1st partyデータを利用者一人ひとりのIDに紐づけたかたちで利用することが可能なため、オンラインで消費者への広告の初回接触からオフラインの店頭での購入までシングルソースデータで行動を分析することができ、消費者の行動に秘められたインサイトをより精緻に紐解くことができます。
このような消費者のオンライン・オフラインの行動データを統合して、無関係な広告のストレスを軽減し、趣味趣向が合致したサービスや商品の広告の接触から購入までシームレスな体験をリテールメディアの広告で提供することが可能です。
まとめ
リテールメディアで展開される広告は、リテーラーが保有する購買データやプラットフォームを活用することで、売上にも直結し、強い認知を形成できるため、高い効果を発揮します。ROMIやインクリメンタルとして広告効果を測定でき、マーケティング投資の適正化の判断も行いやすくなります。今後はオムニチャネル戦略による広告メッセージの展開が重要なトレンドとして注目されるでしょう。