リテールメディアとは?世界で注目の理由やメリット・事例を解説

2024.11.28

リテールメディアは、小売業者(リテーラー)が自社で保持するデータやメディアを活用してコンテンツを提供し、消費者にパーソナライズされた情報や広告を届ける新しい手法です。従来のデジタル広告では達成できなかった高精度なターゲティングが可能であり、購買データを基にした広告配信により、消費者の購買モーメントに最大限寄り添ったメッセージングが可能になります。この記事では、リテールメディアの定義や特徴・種類、成長の背景から、国内外の事例、そして活用方法まで、総合的に解説していきます。
  

リテールメディアとはなにか?

リテールメディアとは、ECサイトや店舗、アプリなど小売業者が持つメディアを活用してコンテンツを提供する仕組みです。コンテンツには、リテーラーが提供する番組のようなものや、来店者に向けた広告などが含まれます。広告の出稿主は、来店者の購買データに基づいて、最適なタイミングで最適な広告をデリバリーすることができるため、広告の投資対効果が非常に高いとされています。また、広告出稿を受ける側の小売業者は新たな収益の柱を得られることにもなるため、いかにリテールメディアを高付加価値のメディアとして成立させるかということがさかんに議論されています。このセクションでは、リテールメディアの定義や特徴、種類について詳しく見ていきます。

リテールメディアの特徴

リテールメディアは、小売業者が蓄積する実購買データ(1st partyデータ)を活用して広告をターゲティングできることを強みとしています。よくあるウェブ広告のターゲティングは消費者がウェブコンテンツを閲覧した履歴など、興味や関心に類する情報をもとに、関連性があると判断された広告が表示されます。そのため、ときには消費者の趣味、趣向に合致しない広告が表示されることがあります。
  

しかし、リテールメディアは消費者が間違いなくその商品を買ったという「意思決定そのもの」のデータを使ってターゲティングを実施するため、他の広告と比べてターゲティングの精度が格段に高くなります。これにより、消費者は自分にとって有用な広告に接触することができ、広告主は効率的な広告配信が可能となります。
  

また、リテールメディアは消費者の購買に対する意識が能動的に高まっているときに接触させやすいという特徴も持っています。リテールメディア以外の他のメディアを通じた広告施策は、消費者がTV番組を見ている時、スマホで何か調べ物をしているときに視界や時間を奪うような形でメッセージを届ける場合がほとんどです。
  

それに対し、リテールメディアはスーパーなどの店頭やリテーラーが運営するアプリなどで展開されるメッセージ媒体であるため、購買意識が高まっている消費者に向けて、メッセージを届けることができるので、より自然な形で購買を促すことができます。
  

このように、リテールメディアは従来の広告とは異なり、実購買データを活用したターゲティング、また購買意欲が高いシーンに向けてメッセージングが可能であるため、他のメディアを通した施策では到達できない効果を生み出すことができるメディアです。

リテールメディアの種類

リテールメディアには複数のタイプがあります。タッチポイントという観点から、外部ウェブサイト上でのタッチポイントであるオフサイト広告、リテーラー自身が運営するアプリなどのサービスをタッチポイントとするオンサイト広告、店頭で展開されるインストア広告の3つに大別することができます。

オフサイト広告:

検索エンジンや動画サイトなど、リテーラーが自身で所有していないメディアに向けて広告を配信する広告です。リテーラーが保有する1st partyデータと接続した広告を配信します。

オンサイト広告:

リテーラーが運営するECサイトやアプリ、SNSで展開される広告です。過去の購買履歴などに基づいて精度の高い広告が消費者に配信されるため、広告効果が非常に高いのが特徴です。

インストア広告:

小売店の店舗内で使用されるサイネージや店頭ディスプレイ、パンフレットやチラシといったプリントメディアなどを通じて展開される広告です。来店者にリアルタイムで商品やキャンペーン情報を提供することが可能で、消費者の購買意欲をその場で刺激します。

  

リテールメディアが注目される背景

リテールメディアが急速に成長している背景には、デジタル広告市場の変化と消費者データの活用が進んだことが挙げられます。また、1to1マーケティングの精度向上や、プライバシー保護強化に対応した広告手法としても注目を集めています。ここでは、リテールメディアが台頭してきた背景を詳しく解説します。

精度が高い1to1ターゲティング

リテールメディアが注目される最も大きな理由は、1to1ターゲティングの精度が格段に向上している点です。小売業者が保有する購買データや行動履歴データを活用することで、消費者の興味や購買意欲に応じた広告配信が可能になります。例えば、過去に特定のブランドの商品を購入した消費者に対して、同ブランドの新商品を広告することができます。このようパーソナライズドされた広告は消費者にとって有用で、広告主にとっても効果的です。

顧客のプライバシー保護強化 3rd partyクッキーの規制

従来のオンライン広告は、3rd partyクッキーを活用して消費者の行動をトラッキングし、そのデータを元に広告を配信していました。しかし、プライバシー保護の観点から、Google Chromeをはじめとする主要なブラウザで3rd partyパーティクッキーのサポートが段階的に廃止されることが決まっています。これにより、リテールメディアのように1st partyデータを活用する広告手法が注目されています。

1st partyデータとは、ECサイトやアプリ内で収集された消費者のデータであり、消費者が自ら提供した情報に基づくため、プライバシーリスクが低く、信頼性が高いのが特徴です。こうした背景から、リテールメディアは、消費者プライバシーを尊重しながらも効果的なターゲティングを行える手法として、今後さらに普及していくと予想されています。

シングルソースでフルファネルの分析が可能

従来の広告手法では消費者との初回のタッチポイントから登録、購入などのアクションまでを一貫して計測することができませんでした。

しかしリテールメディアは1st partyデータを利用するため、消費者への広告の初回接触から店頭での購入までシングルソースで追うことができ、消費者の行動を正確に分析することができます。

これにより、従来のリアル店舗中心のビジネスモデルから、オンラインとオフラインをシームレスに統合したオムニチャネル戦略への移行が求められています。このようにデジタル化された購買データを活用した高度なターゲティングや、消費者の購買体験を向上させるための新しい施策が求められています。

リテールメディアは、こうした環境の変化に対応するための強力なツールとなっており、消費者のオンライン・オフラインの行動データを統合して、無関係な広告のストレスを軽減し、趣味趣向が合致したサービスや商品の広告の接触から購入までシームレスな体験を提供することが可能です。

市場規模の急成長(アメリカの事例)

近年、ROI重視の経営戦略や競争激化、またデジタルマーケティングなど投資対効果の可視化が可能な打ち手の広がりとともに、ROMI(Return On Marketing Investmentマーケティング投資対効果)が重要視されるようになっています。

リテールメディアは広告主にとって高いROMIをもたらす魅力的な選択肢であるという点からも支持を集めています。ROMIとはマーケティング活動に投資したコストの費用対効果を計測する指標のことで、これまで成果を測りにくかったマーケティング領域において主流の指標です。

アメリカではこの流れを受け、リテールメディアは2024年から2027年にかけて年平均成長率20%以上の成長が見込まれており、リテールメディアの市場規模は急速に拡大しています。(EMARKETER:Retail media ad spend will more than double by 2027)。

リテールメディアは消費者の購買行動データを活用するだけでなく、IDに紐づいた消費者一人ひとりに対するメッセージングとその後の購買行動の変化を可視化できますそのため、広告に利用した費用を実際の売上と突き合わせて検証することが可能であり、インクリメンタルの効果をマーケターが実感できるメディアです。

通常の広告キャンペーンではインクリメンタルの計測が困難ですが、リテールメディアはインクリメンタルの増分を具体的に計算可能なため、より最適な予算配分をすることができるメディアであるということが市場の成長率に好影響をもたらしており、今後も拡大が続くと予想されています。

  

リテールメディアの市場

リテールメディア市場は、北米、欧州、アジアなどの地域で急成長しています。それぞれの地域における市場規模や成長予測を具体的なデータに基づいて見ていきます。

海外の市場規模

北米市場はリテールメディアの主要な市場であり、特にアメリカがリードしています。2023年にはアメリカ市場におけるリテールメディアの広告収入が360億ドルに達し、2027年までには700億ドルを超えると予測されています。AmazonやWalmart、Targetなどの大手小売業者が市場を牽引しています。

欧州市場でも同様に、リテールメディアは急成長を遂げています。2026年までには、欧州全体でリテールメディアの市場規模が250億ユーロに達すると予想されており、特にイギリスやドイツが主要な市場となっています。欧州では、GDPRなどのデータ保護規制が強化される中で、1st partyパーティデータを活用したリテールメディアが急速に普及しています。

日本の市場規模

日本市場でも、リテールメディアは着実に成長しています。2022年の日本のリテールメディア市場規模はECプラットフォームの広告を含めると、リテールメディアの市場規模は2600億円を超えます(「2022年 日本の広告費」より)。楽天市場やヤフーショッピング、ZOZOTOWNなどの各ECプラットフォームが主導した広告キャンペーンが消費者の購買行動に強く影響しています。

  

リテールメディア導入のメリット

リテールメディアの導入には、多くのメリットがあります。特に、広告主、消費者、小売業者にとって、それぞれ異なる利点があります。このセクションでは、それぞれの視点からリテールメディアの具体的なメリットを見ていきます。

メーカー、ブランド、広告主にとってのメリット

リテールメディアは、広告主にとって非常に効果的な広告手法です。最大の利点は、消費者の購買データに基づく高度なターゲティングが可能な点です。購買データは実際に行った意思決定の履歴であるため、興味や関心といった種別のデータよりも再現性が高く、これにより、広告主は無駄な広告費を削減し、ターゲットとする消費者に直接アプローチすることができます。例えば、Amazonの広告プラットフォームを活用することで、広告主は平均して約30%の売上増加を達成しています。

リテールメディアはマスメディアやウェブ広告、SNSなど他のメディアに比べて消費者の購買の現場に近いタッチポイントでのメッセージングが可能です。そのため、購買データを活用した顧客行動の分析、検証などの深いインサイトの提供、継続的な効果の可視化、広告としての勝ち筋の再現性などが期待されています。

上記のことから、リテールメディアは購買意欲の高い消費者に対して広告を配信できるため、コンバージョン率が高く、ROMIが非常に高いです。特に、消費者が商品購入を検討しているタイミングで広告を表示することができるため、購買行動を促進する効果が期待できます。

消費者にとってのメリット

消費者にとって、リテールメディアの最大のメリットは、パーソナライズされたメッセージ・広告を受け取ることで、より自分の興味やニーズに合った商品やサービスを見つけやすくなる点です。例えば、過去に購入した商品に関連する新商品や、興味を持っているカテゴリの商品が広告として表示されることで、消費者は無駄な広告を目にすることが減り、購買体験が向上します。

また、リテールメディアを通じて「触れたことがなかったが自分に合った」商品やサービスに出会う機会が増え、消費者にとっても購買行動が楽しくなるという効果があります。

  

リテールメディアのデメリット

一方で、リテールメディアにもいくつかのデメリットがあります。特に、システムの構築や運用、またそのプラットフォームを支えるチームの採用や教育にかかるコストが挙げられます。このセクションでは、リテールメディアのデメリットについて詳しく見ていきます。

構築や維持に時間とコストがかかる

リテールメディアの導入を自社完結で実施する場合には、システム構築やデータ管理、広告運用の体制構築が必要です。特に、購買データを効果的に活用するためには、データ分析のためのシステムや専門知識が必要であり、そのためのリソースが求められます。これにより、中小小売企業にとっては、導入時のコストや運用の負担が大きくなる可能性があります。

また、広告運用の効果を最大化するためには、PDCAサイクルを回しながら、常に広告の効果を分析・改善していく必要があります。これには専門知識のある人材の採用や運用体制の構築、保持など継続的な労力がかかるため、リソースが限られている企業にとっては負担となる場合があります。

競争の激化

リテールメディア市場が急成長している一方で、広告主同士の競争も起きています。特に、人気のあるECサイトやアプリ内の広告枠は限られているため、競争が激しくなり、広告費が高騰するリスクがあります。また、効果的な広告運用を行うためには、高度なターゲティング戦略やクリエイティブな広告コンテンツが求められます。

  

日本のリテールメディアの事例

日本におけるリテールメディア市場は主要ECプラットフォームを中心に拡大しています。ここでは、日本のリテールメディア市場における事例を紹介し、その成功要因を探ります。

事例紹介

ECサイトを運営するA社は、リテールメディアを活用して広告主に対して高いROASを提供しています。例えば、ポイントを活用した広告キャンペーンでは、ポイントの付与率が高い商品の広告は購入率が上がりやすいため広告効果が非常に高くなります。A社が提供するプラットフォームでは、広告出稿を行ったメーカーの多くがキャンペーン期間中に売上を向上させています。

同じくECサイトを運営するB社も、消費者のサイト閲覧履歴や購入履歴を基にしたターゲティング広告を提供しており、消費者のスタイルに合わせた商品提案が可能です。これにより顧客満足度の向上とともに、広告収益の拡大が実現しています。

このように、日本における先行例の多くがECサイトにおける事例となっており、スーパーやドラッグストアといったリテーラーの事例についてはこれからの展開がまたれるところです。

日本のリテールメディアの課題

日本のリテールメディア市場は成長を続けていますが、いくつかの課題も存在します。特に、消費者のプライバシー意識の高まりや、デジタル広告に対する規制強化が進む中で、広告主や小売業者はデータ管理に関するコンプライアンスを強化する必要があります。

リテールメディア間の壁

日本にはアメリカのAmazonやWalmartのような大きなシェアを占めるリテールメディアプラットフォームが無いため、中~小規模のリテールメディアが乱立し広告主が求めるリーチ数が担保できない課題などがあります。解決のためには複数のリテールメディアを束ねて、指標を標準化したネットワークの構築が必要です。

オンライン/オフラインの横断

現在、日本では特にオンラインを中心としたリテールメディアが先行し、展開が進んでいます。しかしオンラインだけで十分といえるでしょうか。日々店頭を訪れる来店者のデジタルリテラシーがさまざまであると考えられることから、リテールメディアの強みである1to1メッセージにもオンライン・オフラインを組み合わせてチャネル横断を実施する必要があると思われます。

パーソナライズされた店頭体験

日本でもEC化は進んでいますが、未だに店頭での買い物が小売の市場流通額の大半を占めており、店頭体験は消費者との重要な接点です。リテールメディアの発達により1st partyデータを基にしたターゲティングで、来店者一人ひとりのニーズに即したメッセージを届けることができるようになりました。しかし、オンラインの接点からオフラインの店頭体験までリアルタイムで一貫して1to1でメッセージングできるツールは非常に少なく、開発により一層のブレークスルーが必要だと思われます。

  

海外のリテールメディアの事例

海外では、リテールメディアを活用して大きな成功を収めている企業が多数存在します。特にAmazonやWalmartなどの大手小売業者は、リテールメディアを効果的に活用し、広告収益を増やしています。ここでは、海外のリテールメディア事例を紹介し、その成功要因を探ります。

海外事例

世界各国でECサイトを運営するAmazonは世界最大のリテールメディアプラットフォームの一つであり、同社の広告ビジネスは急速に成長しています。Amazonは、世界中の消費者の購買データや検索履歴を活用し、パーソナライズされた広告を配信しています。これにより、広告主は消費者が最も購入しやすいタイミングで商品をアピールすることができ、高いコンバージョン率を実現しています。 また世界最大の小売企業であるWalmartは広告プラットフォームを提供し、メーカーやブランドに対して広告スペースを販売しています。Walmartはオンラインとオフラインの購買行動データを統合し、消費者に対してシームレスな買い物体験を提供しています。これにより、消費者は店舗でもオンラインでも一貫した広告メッセージを受け取ることができます。

アメリカのリテールメディアの課題

米国のリテールメディア市場は、AmazonとWalmartがシェアの約半数を占めており、残りの半分を乱立している中~小規模のリテールメディアでシェアを奪い合っています。広い面に出稿したいと考える広告主にとっては実質的にAmazonかWalmartの2択になってしまうため、第3、第4の選択肢となり且つ広告主が求めるリーチ数に耐えうるリテールメディアネットワークの構築が必要であると考えられます。

  

まとめ

リテールメディアは、メーカーやブランド、小売業者にとって、消費者に効果的にリーチするための強力な手段です。購買データに基づいたターゲティング広告により、ROASを最大化し、消費者の購買行動に直接的な影響を与えることができます。

消費者、小売、メーカーの三方よしを実現するためにリテールメディアが期待されていることは以下の3点です。

・消費者から提供された1st partyデータを利用するので消費者にとって有益な購買行動に貢献する

・店頭体験をリッチなものにし、リテールの価値を向上させる

・メーカーなどの広告主にリテールメディアに出稿することの効果を結果やインサイトの発見で返す

ただし、リテールメディアを成功させるためには、適切な戦略やシステムの構築も不可欠です。PDCAサイクルを活用して継続的に広告を改善し、データ分析に基づいた施策を展開することで、持続的な成功を収めることができるでしょう。

リテールメディアの市場は今後も成長を続けると予想されており、広告主にとってますます重要な手段となっていくことは間違いありません。