消費財マーケティングにおけるインクリメンタル測定の重要性

データドリブンマーケティングの新時代

消費財マーケティングの現場は、競争の激化、消費者ニーズの多様化、デジタル化の加速など、さまざまな環境変化に対応しなければなりません。ブランドマネージャーは、限られた予算を最大限に活用し、売上増加やブランド認知の向上を実現する必要があります。

しかし、従来のマーケティング手法では、キャンペーンがどれだけ追加の価値を生み出したかを正確に把握するのが難しく、マーケティング投資の効果が曖昧になりがちです。

この状況下で、マーケティングのカギとなるのが「インクリメンタル測定」です。インクリメンタル測定とは、特定のマーケティング施策やキャンペーンがなければ発生しなかった追加的な効果(増分)を評価する手法であり、施策が顧客行動、そして売上にどれだけ寄与したかを明確にします。

eMarketerの調査(2024年、米国企業500社対象)によると、2025年、米国のブランドおよび代理店のマーケティング担当者の47%がアトリビューション/測定を最優先投資項目と位置づけており、その中心にインクリメンタル測定があります。

本記事では、なぜ消費財マーケティングでインクリメンタル測定が不可欠なのか、そしてどのようなソリューション、ツールがその精度を高めるのに最適かを、データと洞察を交えながら詳しく解説します。

インクリメンタル測定の意義とその重要性

消費財マーケティングにおいて、インクリメンタル測定が注目される理由は、マーケティングの真の効果を明らかにし、戦略の効率性を高めることができるからです。単に総売上やインプレッション数で成功を測るのではなく、施策が「追加的」な価値を生み出したかどうかを評価することが、予算配分や競争優位性の獲得に不可欠です。

インクリメンタル測定の核心は、ベースライン(自然発生する成果)を除外し、施策による純粋な増分を特定することです。たとえば、季節的な需要や競合のプロモーションが売上増加の要因である場合、マーケティング活動の真の貢献度が不明確になります。

インクリメンタル測定は、コントロールグループ(施策を受けないグループ)とテストグループ(施策を受けるグループ)を比較することで、この課題を解決します。これにより、消費財メーカーは、どのチャネルやキャンペーンが最も効果的かを把握し、将来の投資をデータに基づいて計画できます。

しかし、従来のマーケティングチャネルでは、インクリメンタル測定において難しい課題が存在します。TV、SNSといったチャネルでは、広告接触後の購買行動を直接追跡するのが困難です。たとえば、TVCMがブランド認知を高めたとしても、その認知が具体的な売上や顧客行動にどの程度寄与したかを評価するには、データの一貫性が不足したり、トラッキング技術の限界に直面したりします。

このような課題を克服するには、広告データと購買データを厳密に統合する新たなアプローチが求められます。

インクリメンタル測定の手法とその応用

インクリメンタル効果を測定する方法は多岐にわたります。以下に代表的な手法を紹介します。

1.A/Bテスト

最も取り組みやすく、正確性が明確な手法で、施策を行うグループ(テストグループ)と施策を行わないグループ(コントロールグループ)をランダムに分け、結果を比較します。消費財マーケティングでは、例えば、新製品のプロモーションキャンペーンで、オンライン広告を一部の顧客にだけ表示し、表示しなかった顧客との売上やコンバージョン率の差を測定します。

この方法は、短期間で結果を得たい場合や、特定チャネルの効果を迅速に検証したい場合に活用されます。

2.ジオリフト分析

地域ごとにマーケティング施策の実施を分ける手法で、地域間の差分をインクリメンタル効果として評価します。例えば、ある地域ではTVCMと小売店の店頭の組み合わせでキャンペーンを実施し、別の地域では何も実施しない場合、両者の売上やブランドエンゲージメントの差を測定します。

この手法は、地域市場の特性を考慮した戦略立案に有効で、地理的な要因を考慮しながら効果を評価できます。

3.回帰分析

過去のデータを利用し、マーケティング施策と成果の因果関係を統計的にモデル化します。この方法は、複数の変数(季節、競合の動き、経済状況)を考慮しながら、施策の効果を定量化します。長期的なトレンドを把握し、将来の予測や予算配分に有用ですが、データ収集と分析には専門知識とチームが必要です。

4.マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)

クッキーに頼らず、統計モデルで施策と成果の関係を推定します。この手法は、デジタルとオフラインのチャネルを統合的に分析し、全体の効果を評価します。たとえば、食品ブランドがTV、SNSの貢献度を比較し、どのチャネルが売上増加に最も寄与したかを特定でき、戦略の優先順位を決定する際に活用できます。

インクリメンタルの測定精度を高めるソリューションとしての「リテールメディア」

消費財マーケティングにおいて、インクリメンタル測定の精度を高めることは、マーケティング効果を明確にする鍵です。

しかし、従来のチャネルでは、正確な測定に難しい課題が存在します。前述しましたが、従来のチャネル(TV、SNS)では、消費者の広告データと購買データを直接結びつけるのが困難です。

この課題を克服する手段としてリテールメディアが注目されています。リテールメディアとは、小売企業が持っている自社の店頭・アプリ・ネットスーパーなどの面を活用し、広告・その他コンテンツを配信する仕組みです。小売企業が保有しているIDごとの実購買データをターゲティングに活用することで、企業が狙いたいターゲットに対してメッセージを配信することが可能です。

リテールメディアを活用することによって、購買計測をID単位で検証できる点で、インクリメンタル効果の評価に最適です。

リテールメディアはなぜインクリメンタル測定に優れているのか

リテールメディアは、消費財ブランドが購買行動を追跡し、インクリメンタル効果を正確に測定する能力を提供します。これにより、データドリブンの意思決定が可能になります。

1.購買データとの密接な連携

リテールメディアは、消費者が広告を見た後、実際にどの商品を購入したかを追跡できるため、広告と購買行動の因果関係を明確にします。これにより、インクリメンタル効果が正確に測定できます。

2.テストの容易さ

コントロールグループとテストグループの設定がシンプルで、A/Bテストやジオリフト分析を効率的に実施できます。消費者の行動データを基にランダムにグループを分け、正確な結果を評価することが容易です。

3.ターゲティングの精緻さ

消費者の購買履歴や行動データを基にした精密なターゲティングが可能で、消費者の実行動に関連性の高い広告配信が実現します。これにより、インクリメンタル効果の最大化が期待できます。

リテールメディアがもたらすメリット

リテールメディアを活用することによって、消費財マーケティングの投資対効果を高め、競争力を強化することが可能になります。以下はその具体的な利点です。

1.マーケティング投資対効果の最大化

インクリメンタル測定により、効果が低いチャネルやクリエイティブを早期に特定し、予算を再配分することで、無駄な支出を削減できます。これにより、全体のマーケティングROI(ROMI)が向上します。

2.高い再現性

リテールメディアは、購買データに基づくターゲティングを行います。実際に消費者が商品を購入した、という実購買データをもとにターゲティングしているので、消費者の興味・関心情報をもとにターゲティングするよりも行動の再現性が高くなります。

3.データドリブンな意思決定

購買データに基づくインサイトを提供し、将来のキャンペーンを最適化します。これにより、消費者の行動パターンを深く理解し、戦略的投資の精度を高められます。

リテールメディアでのインクリメンタル測定の成功例

リテールメディアは、インクリメンタル測定の精度を高める具体的な成果を上げており、以下に2つの実例を示します。

1.Kroger Precision Marketing(消費財ブランドとのキャンペーン、2023年)

2023年、Kroger Precision Marketingは、消費財ブランドと協力し、日用品カテゴリのキャンペーンを実施しました。A/Bテストにより、広告を受けた顧客グループで追加の購買が促進され、特に新規顧客の獲得に成功しました。

Krogerのプラットフォームは、購買履歴に基づく精密なターゲティングを可能にし、広告が既存顧客だけでなく新規顧客にも効果を発揮した点が評価されました。

2.Target Roundel(食品カテゴリとのキャンペーン、2022年)

2022年、Target Roundelは、食品ブランドと共同でキャンペーンを行いました。このキャンペーンではジオリフト分析の結果、広告実施地域で追加の売上が確認され、新規顧客による購買が顕著でした。

Target Roundelの購買データとオンライン・オフラインの統合分析により、広告がもたらした追加売上が明確に特定され、キャンペーンの効果が証明されました。

リテールメディアを活用したインクリメンタル測定の導入ステップ

リテールメディアを活用し、インクリメンタル測定を導入するためのステップを以下にまとめます。

1.目標設定

インクリメンタル測定の目的を明確にする(例:売上増加、新規顧客獲得、ブランドエンゲージメントの向上)。

2.リテールメディアパートナーの選定

購買データの精度と量、分析ツールの充実度に基づいて適切なリテールメディアパートナーを選択。

3.KPI設定

KPIを設定し、コントロールグループとテストグループの配信設計を行う。A/Bテストやジオリフト分析の計画立案。

4.インクリメンタル効果分析

キャンペーン実施中および終了後にデータを収集し、コントロールグループとテストグループでインクリメンタル効果を分析。

5.戦略改善

得られたインサイトに基づき、キャンペーンを改善し、戦略を調整。

これらのステップにより、消費財ブランドはリテールメディアを効果的に活用し、インクリメンタル測定の精度を最大化できます。

マーケティングにはインクリメンタル測定が重要

インクリメンタル測定は、消費財マーケティングにおいて、マーケティング活動の真の効果を理解し、戦略をデータ駆動型に進化させるための不可欠なアプローチです。リテールメディアは、購買データと広告の関係を明確にし、インクリメンタル測定の精度を飛躍的に高めます。

インクリメンタル測定は、消費財ブランドが競争力を維持し、持続的な成長を達成するための基盤です。マーケティングにはインクリメンタル測定が重要であり、その実践を通じて、データに基づく戦略を強化し、市場での優位性を確保することができるでしょう。

カタリナマーケティングでは、日本最大規模の1億IDの購買データから顧客インサイトを発見し、リテールメディア施策やインクリメンタル測定を実施することができます。少しでもご興味がありましたら、専門チームが貴社の目標達成に向けた最適なソリューションをご提案します。ぜひお問い合わせください。

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