インサイト分析とは?分析手法やテクニックまで詳細に解説

2025.5.22

  

多様化する現代社会でビジネスを成功させるためには、消費者の心理を深く理解することが重要です。中でもインサイト分析は、商品やサービスに対する消費者のニーズを把握し、マーケティング施策の立案や改善に繋げるために欠かせません。一方で、「インサイト分析とは何か」「インサイト分析はどうやったらいい」など疑問に感じる方もいらっしゃるでしょう。

  

この記事では、インサイト分析の概要や方法、具体例、活用のコツなどを紹介します。

  

インサイト分析とは何か

インサイト分析とは、消費者の心理や行動を洞察し、そこからインサイトを導き出す方法です。インサイトとは洞察を意味し、消費者が商品やサービスを購入する背景や動機、欲求などを指します。例えば、消費者が何となく選んだ商品でも、その行動の背景には感情や価値観などが関連している場合もあります。

  

消費者自身も自覚していない欲求や動機を明らかにし、マーケティングに活かすためには、インサイト分析が不可欠です。特に近年は、高品質で手頃な製品やサービスが増え、消費者は価値や体験を重視する傾向にあります。そのため、モノを売るためにはインサイトを把握し、他にはない価値や体験を提供することは重要です。

  

インサイト分析と単なるデータ分析の違い

単なるデータ分析は事実の把握に留まるのに対し、インサイト分析は、その裏にある理由や感情を探るという違いがあります。例えば、データ分析は、将来予測や改善策の立案を目的に、過去から現在までに「何が起こったか」を分析することです。一方、インサイト分析は、消費者の心理やニーズを探り、製品やサービスに反映させるために「なぜそれが起こったか」を分析します。

  

ビジネスにおけるインサイト分析のメリット

ビジネスにおけるインサイト分析では、消費者の表面的な行動だけでなく、その背景にある心理や感情の把握をします。その結果、ビジネスにおいては以下のようなメリットが期待できます。

  

メリット具体例
競合他社との差別化競合他社が気づいていない消費者欲求に気づき、他社とは違う切り口で商品開発や広告の展開ができる。
サービスの改善に繋がる消費者の心理を理解することで、商品やサービスの改善点を見つけ出し、対策ができる。
シェアの拡大を図る消費者の欲求を見つけ、他社とは異なる価値観や視点で、商品やサービスの開発を行ってシェア拡大を図る。

また、インサイト分析で複雑な消費行動を把握することにより、マーケティング施策も効果的に実施できるようになります。

  

インサイトを見つけるプロセス

消費者自身が気づいていないインサイトを見つけるためには、以下のステップを踏むことがポイントです。

  

ステップ概要
1.目的の明確化インサイト分析を行う目的を明確にする。
2.情報収集数値や統計データなどの定量データ、インタビューや口コミなどの定性データを収集する。
3.データの分析集めたデータを整理・統合して分析する。
4.仮説の立案「消費者の〇〇という行動には、▢▢という心理があるのでは」のように仮説を立てる。

これらのプロセスにより、消費者心理の洞察が得られ、インサイトの発見に繋がります。

  

インサイト分析に必要なツール

インサイト分析では、データの収集・統合や消費者の行動分析が必要となるため、これらを効率的に行うためのツールが欠かせません。具体的には、以下のようなツールがあるとインサイト分析を効率よく行うことができます。

  

【インサイト分析に役立つツール】

  • データ収集・統合ツール
  • ウェブ解析ツール
  • 顧客行動分析ツール
  • データ可視化ツール
  • ソーシャルリスニングツール

  

なお、ツールによっては使いこなすために高度なスキルが必要な場合もあります。

  

インサイトの分析方法

インサイトの分析は、適切な手順で進めていくことが重要です。

  

インサイト分析の目的を明確化し仮説を立てる

まずは、インサイト分析の目的を明確化して仮説を立てましょう。目的としては、新商品の開発や既存商品の改善、マーケティング戦略の見直しなどが挙げられます。どのような課題があって改善したいのかを明確にしておかないと、分析の方向が定まらずに分析結果が施策に繋がらないため注意が必要です。

  

また、課題に対して仮説を立てておくことで、無駄な分析を避けられ、効果的にインサイト分析を行えるようになります。例えば、ある商品の売れ行きが落ちてきている場合には、「消費者が他の類似商品に流れている」「パッケージが古い印象を与えている」といったように課題に対して複数の仮説を立てておきましょう。

  

データ・情報の収集

インサイト分析では、定量データや定性データをバランスよく集めることが重要です。データ収集によって消費者が自覚していない潜在的なニーズや動機を明らかにできる可能性があり、また収集したデータを分析することで、消費者が真に求める価値を理解し、それに基づいた製品開発が実現可能です。

  

定量的データや定性的データを集めるためには以下のような方法があります。

  

データの種類集める方法
定量データアンケート調査ウェブ解析データ購買データ市場データ
定性データインタビュー調査ソーシャルリスニング行動観察調査フォーカスグループ

これらの情報は分析しやすいようにプロセスごとに整理し、不足しているデータがある場合は、その都度調査を行いましょう。

  

仮説検証のために分析をする

収集したデータを基に、事前に立てた仮説検証のために分析を行いましょう。仮説検証のための分析は、消費者行動や選択の背景にある心理や無意識の動機を明らかにするために必要です。分析を通して、「消費者がなぜこのような行動をしたのか」「なぜこの商品を選んだのか」など、消費者自身が気づいていない深層心理を探ります。

  

インサイトの検証とフィードバック

仮説検証のための分析ができたら、次は分析結果からインサイトを検証していきます。

  

インサイトを検証するには、以下のフレームワークを用いるのがおすすめです。

  

フレームワーク名内容
ペルソナ設定自社の商品やサービスを使用する典型的な消費者像を作成する。
共感マップペルソナの感情、思考、行動を視覚化する。
カスタマージャーニーマップ消費者が商品やサービスと接触する一連のプロセスを可視化する。

これらのフレームワークを使って消費者の状況や感情を可視化し、インサイトの検証を行いましょう。インサイトを検証した次は、新たな調査やインタビューを実施し、消費者からフィードバックを収集します。フィードバックを得た後は、インサイトをより正確かつ有用なものに修正します。また、フィードバックは定期的に収集し、インサイトを最新の状態に保つことも重要なポイントです。

  

実行可能なアクションへの落とし込み

インサイト分析によって発掘したインサイトは、実行可能なアクションに落とし込みましょう。短期的なアクションプランと長期的な戦略を策定し、現場の体制やリードタイムも考慮しながら、現実的で具体的な行動計画を立てましょう。アクションを実行した後は、定期的に効果を測定することも重要です。KPIを設定し、実行結果を分析しながら、新たな改善点を見つけてアクションの質を高めましょう。

  

インサイト分析の具体例

インサイト分析はインサイトを見つけて終わりではなく、そのインサイトを活用することが重要です。データ分析や検証によって導き出されたインサイトは、さまざまなシーンで活用できます。

  

マーケティングにおけるインサイト分析の例

顧客行動を分析し、そこから得た情報をもとにインサイト分析を行い、マーケティングや商品開発に活かす事例もあります。

  

例えば、アメリカのカリフォルニア牛乳協会では、調査対象者に牛乳を飲まない生活を1週間送ってもらい消費者インサイト分析を行いました。この調査から飲みたいときに牛乳がないと、牛乳を強く想起することや、牛乳が欲しいタイミングはクッキーやパンを食べるときであることもわかりました。このインサイトをもとに、クッキーやパンを販売しているお店の近くに「got milk?」と記載することで売上アップにつながりました。

  

顧客行動分析のケーススタディ 

企業が顧客の行動パターンや購買特性を分析し、そこから得たインサイトをマーケティングや商品開発に活かす事例もあります。例えば、Amazonでは顧客行動分析から「消費者は過去の購入履歴や閲覧履歴行動に関連する商品に興味がある」「短時間で効率的に購入したい商品を見つけたい」等のインサイトを発見しました。

  

このインサイトをもとに、消費者に適した商品推奨と購入体験を提供し、消費者満足度の向上につながっています。

  

製品開発におけるインサイト活用 

データ分析から得られたインサイトは製品開発にも活用されています。

  

例えば、ユニクロでは消費者分析から「着膨れしたくない」「防寒インナーはおしゃれに着こなせない」などのインサイトをみつけ、伸縮性や薄さ、デザイン性、機能性に優れるヒートテックを開発しました。ヒートテックは世界中で大人気の商品となり、ユニクロの代表的な商品の一つとなっています。

  

ソーシャルメディア分析の成功事例

ソーシャルメディア分析から得られたインサイトは製品開発にも活用されます。

  

例えば、日清食品はSNS分析から、シニア層の投稿に豪華な食事が多く投稿されていることを見つけ、「シニア層は健康志向であるものの、その一方で、おいしければカップヌードルも食べる」という新たなインサイトを見つけました。そこでカップヌードルでも本格的で贅沢な味わいが楽しめるというコンセプトで、カップヌードルリッチを販売して成功を収めました。

  

このように、インサイト分析は新製品開発や新しい市場セグメントの開拓にも活用可能です。

  

インサイト分析のコツ

データ分析から新たなインサイトを発見するためには考え方などにコツがあります。

  

原因や要因を突き詰めて考える

インサイト分析で新たなインサイトを導き出すためには、原因や要因を突き詰めて考えることが重要です。消費者がなぜその商品やサービスを購入したのか、消費者自身が理解していないケースも少なくありません。一般的に商品やサービスを選ぶ基準として挙げられるのは、価格や機能、ブランドイメージなどです。

  

しかし、実際に選ぶ基準はこれらの要因だけでなく、潜在的な心理要因や購買体験に関する感情的な要因が含まれることもあります。このようになかなか気づくことができない心理的な要因を明らかにするためには、消費者からのフィードバックを定期的に実施し、原因を探すことが大切です。

  

また、アンケート調査やフィードバック調査などを経て、消費者が商品やサービスを購入する際の心理的なプロセスを分析する必要もあります。

  

普遍的な欲求を見直す

インサイト分析では、食欲や睡眠欲、愛情欲求、自己実現欲求など普遍的な欲求を見直すことも大切です。

  

例えば、食欲は人が持つ普遍的な欲求の一つで、これを満たすための商品やサービスは多くあります。食品を販売している企業の中には、「ユーザーは味や質を求めている」と考え、味や質を重視した商品を開発している企業が多いと思います。しかし、実際のメインターゲットは、味や質の高さよりもカロリーの少なさや栄養分の多さを重視している場合もあるでしょう。このように、人間が持つ普遍的な欲求には、思い込みが含まれていることもあります。

  

商品やサービスの開発や改善を行うにあたって、顧客の欲求に対してどのように応えられているか再度の確認を行うことが重要です。

  

トレンドを把握しておく

インサイトは社会的な流行や文化的な背景によっても変化するため、トレンドを把握しておく必要もあります。「現在流行しているものは何なのか?」「トレンドが発生したきっかけは何なのか?」などを捉えることもポイントです。また、トレンドの背景はポジティブな要因だけではなく、ネガティブな要因も考える必要があります。例えば、アウトドア商品が多く売れているのは、単なるキャンプブームだけではなく、災害に対する不安や防災対策がきっかけになっている可能性もあるでしょう。

  

キャンプを目的にアウトドア商品を買う人と、防災を目的にアウトドア商品を買う人ではインサイトも異なります。その商品やサービスがなぜ売れているかを考える際には、本来の用途や目的以外にも、社会や経済、文化的な背景も含めることが重要です。

  

感情の動きを熟知する

商品やサービスを購入した消費者の感情を理解しようとする姿勢も、インサイト分析を効率よく進めていくコツです。消費者が商品やサービスをなぜ購入したかについては、消費者自身もわかっていないことが多くあります。この隠れたインサイトを見つけるためには、価格や機能、ブランドだけでなく、「感情」に着目することが大切です。

  

感情の変化を分析する手法として、感情分析と呼ばれる方法があり、インサイト分析にも用いられます。感情分析では、消費者のレビューやソーシャルメディアの投稿などのテキストデータから感情的なトーンを判断し、定量分析では捉えにくい消費者の心理や態度を定性的に分析します。

  

消費者の行動に矛盾が無いか確認する

消費者の行動に矛盾点があるかどうかを突き詰めることで、インサイトを見つけるきっかけに繋がるケースがあります。例えば、環境への関心の高まりもあって、アンケート等では「環境負荷の少ない商品を買いたい」という消費者も少なくありません。しかし、実際に商品開発しても、それを選んでいる人はアンケートの割合に比べて少ないケースもあります。このような矛盾が生じる理由は、価格の高さや利便性の低さ、情報不足などが原因です。

  

また、ファーストフード店でも「健康を意識した商品を販売してほしい」という声があったものの、実際に販売すると売れなかったという事例もあります。これはファーストフードに早さや安さを求める消費者が多く、本音と建前が異なるためです。

  

このように言葉では賛成しているものの、実際の行動には移さないというギャップが見られるケースも多くあります。そのため、消費者の声と行動にギャップがないか確認し、その理由を探ることも重要です。

  

インサイト分析のテクニック

データ分析からインサイトを導き出すためには、いくつかテクニックがあります。

  

定量分析と定性分析の使い分け

消費者のインサイトを知るためには、定量分析と定性分析を使い分けることもポイントです。定量分析には仮説を数値で検証でき、定性分析は仮説を構築できるというメリットがあります。

  

インサイト分析において、消費者のインサイトを導き出す点では、定量調査よりも定性調査が有効です。しかし、定性調査では本音と建前に注意が必要であり、インタービューやアンケートで回答者が本音で答えてくれないケースもあります。本音と建前を見抜くためには定量調査が有効で、インタービューやアンケートで得た仮説の裏付けができます。一方、定量調査から得られる数値の結果は一つであるものの、その数値に対する感情や分析結果は人によってさまざまです。

  

定量調査で得た複数の切り口と定性調査での仮説を組み合わせ、上手に使い分けをしながらインサイト分析をしましょう。

  

実購買データを活用したインサイト分析

実購買データを活用したインサイト分析は、消費者の購入履歴を収集して分析して、インサイトを見つける手法です。購買データを分析することにより、「どんなカテゴリの商品を買っているか」「どれくらいの頻度で購入しているか」などが明らかになります。このようなデータをもとに、消費者の心理を深堀りすることで、インサイトの発見に繋げることが可能です。

  

インサイト分析で使用される実購買データとして以下が挙げられます。

  

【実購買データの種類】

実購買データ概要
ID-POSデータ小売店舗での販売時点での情報を記録したデータ。商品名、購入日時、価格、数量、支払い方法などのデータが含まれる。
ECサイトの購入データECサイトでの購買行動を記録したデータ。閲覧履歴やカート落ち商品なども含まれる。
会員カード顧客の基本属性や生活属性、購買や購買履歴などのデータ。消費の活動地も含まれる。
キャッシュレス決済クレジットカードやQRコードの決済時に記録されるデータ。決済番号や取引日、取引金額なども含まれる。

実購買データは、消費者の実際の売買行動を反映した事実に基づくデータであり、消費者のインサイトの発見に有効です。

  

トレンド分析と時系列分析

インサイト分析では、トレンド分析や時系列分析も行うことにより、インサイトを見つけやすくなります。

  

トレンド分析とは、SNSや口コミサイトから消費者の本音や市場傾向を分析する手法です。トレンド分析には、消費者の生の声が把握できたり、競合他社の動向を分析したりできるメリットがあります。消費者行動の変化や新しい傾向を把握できるため、これらの変化の背後にある潜在的なニーズや動機を探るとインサイトの発見に繋がります。

  

一方、時系列分析は時間の経過と共に変化する時系列データを解析し、パターンやトレンドを抽出するための分析です。時系列データとしては、気温や株価などの外的要素と、月々の商品売上数や日々の来客数のような内的要素があります。時系列分析では消費者の行動の長期的な変化の観察ができ、細かく分析することによって表面的な変動だけでなく、本質的な変化を捉えることができます。

  

クラスタリングとセグメンテーション

インサイト分析には、クラスタリングとセグメンテーションも有効です。

  

クラスタリングは機械学習の一種であり、データの中に隠れたパターンや関係性を発見することが目的です。これによって従来は見逃されていた潜在的なパターンを見つけ、インサイトの発見に繋がる可能性があります。

  

一方、セグメンテーションは市場や顧客を属性、ニーズ、行動履歴などの条件でグループ化することです。クラスタリングはデータから自然にグループを発見するのに対し、セグメンテーションとは「事前に定義された基準でグループ化する」という違いがあります。セグメンテーションでは市場や顧客を特定の属性で細分化することで、顧客の多様なニーズや行動パターンを明確に把握可能です。

  

さらに各セグメントの特性を深堀りし、共通行動や価値観を分析することによってインサイトの発見に繋がるケースがあります。

  

ABテストによるインサイトの発見

インサイトを見つける方法として、ABテストの実施も有効です。ABテストとは特定の要素を変更したAパターンとBパターンを作成し、それをランダムにユーザーに表示して成果を比較することです。

  

例えば、Webサイトの商品ページにおいて、AパターンとBパターンを表示し、どちらが多く消費者の興味を引くかを確かめることもABテストです。ABテストの成果から「なぜこのような結果になったのか」「どんな人が影響を受けたのか」などの疑問が生じます。これらの疑問に対して深堀りしていくことで、インサイトの発見に繋げることができます。

  

自然言語処理を用いたインサイト分析

近年は、インサイト分析の手法として自然言語処理技術も注目されています。

  

自然言語処理技術とは、人間が普段から使用している自然言語をコンピューターで処理・理解・生成する技術のことです。機械学習モデルを用いて、テキストデータからパターンや関係性などを発見できます。例えば、消費者の口コミやSNSのコメントから、商品やサービスに対する感情を分析することも可能です。また、ニュース記事やSNSの投稿内容から、市場動向の把握もできます。これらによって得たデータを基に、消費者のインサイトを見つけます。

  

まとめ

本記事では、インサイト分析の方法やコツ、テクニックを紹介しました。

 

インサイトとは、消費者自身が気づいていない購買行動の背景にある欲求や心理のことです。消費者のインサイトを見つけることで、サービス開発や改善、競合他社との差別化を図るなどさまざまな効果が期待できます。一方、インサイトを見つけるためには、多様なデータを用いて詳細に分析することが重要です。

  

カタリナマーケティングジャパンは、20年以上にわたり、実購買データを分析して消費者インサイトを発見してきました。年間売上12兆円規模の購買データを集積し、それに基づいて消費者の購買行動を把握し、効果的なマーケティング戦略を立案・実行します。

  

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