カテゴリごとにこんなに違う! 食品値上がり前々年対比で見えてきたカテゴリ別「値上げのその先」
私たちの身の回りではさまざまなものの値上げが続いています。円安やロシアによるウクライナ侵攻も重なり値上がりは加速、家計への影響は計り知れません。
カタリナ消費者総研では、今回、各家庭の食卓に馴染みの深い10の食品カテゴリをピックアップし、消費者の購入価格がどれだけ上昇しているか、2021年5月と2023年5月の平均購入単価を比較することで見ていきたいと思います。さらに、平均購入単価の上昇が購入数量やカテゴリ全体の購入金額にどのように変化を与えるかについても合わせて確認します。
今回ピックアップした10カテゴリ
- 油類(キャノーラ油、サラダ油、健康油など)
- 調味料(マヨネーズ、ソース、ケチャップなど)
- 冷凍調理品(ハンバーグ、冷凍麺など)
- スープ類(レトルトスープ、冷蔵スープ、カップ容器入りスープなど)
- カレー・シチュー類
- アルコール(購入者数上位10種類)
- 粉物類(小麦粉、ホットケーキ/ミックスなど)
- 醤油(醤油、丸大豆醤油、減塩醬油など)
- パン類(食パン、菓子調理パンなど)
- ドレッシング(ローオイル、ノンオイルドなど)
※カテゴリの分類は、カタリナマーケティングジャパンで独自に設定している消費財カテゴリに基づいています。
油類(キャノーラ油、サラダ油、健康油など)
キャノーラ油は60%以上の上昇!ほかの油類への流出が懸念か…?
総計購入金額(百万円:左軸)、総計購入数量(万個:右軸)の月別変化
油類の総計購入金額(青色)と総計購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。2021年5月と2023年5月の総計購入金額を比較すると105.1%と伸びていることから、市場規模は拡大していることがわかります。しかし、2021年5月と2023年5月の購入数量を比較すると83.3%と減少してしまっています。これは、商品の値上げによって油類が購入される数量が減ったものの、数量減による売上の減少分を上回る値上げが行われているということになります。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
油類の中の小カテゴリの平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。キャノーラ油の平均購入単価は63.7%と大きく上昇しており、今回取り上げた全カテゴリのなかで最も高い上昇率となっています。一方、サラダ油の平均購入単価は4%ほど下降。油類カテゴリ内での価格差が縮まってきています。
100グラム単位での購入価格の変化を見てみましょう。
グラフ下部をごらんください。2021年5月には価格差があったキャノーラ油(青)、サラダ油(紺)、健康油(グレー)の3つの油ですが、2023年5月には価格差が縮まってきています。2021年の段階では、油類カテゴリ内ではキャノーラ油が価格優位性を持っていました。しかし2023年にはその優位性がだんだんと埋められてきてしまっている様子です。特にこのキャノーラ油(青)、サラダ油(紺)、健康油(グレー)の3つの油は利用シーンに似たところがあるため、カテゴリ間で消費者の流出・流入が活発になるかもしれません。
調味料(マヨネーズ、ソース、ケチャップなど)
卵と油のダブルパンチ!マヨネーズの値上げが最も目立つ
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
調味料の購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると110.2%と市場規模は拡大しているものの、2021年5月と2023年5月の購入数量を比較すると85.8%と減少しています。値上げによって買い控えが起きたものの、その減少分を値上げ金額が上回っているという格好のようです。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
調味料のなかの小カテゴリの平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。マヨネーズの平均購入単価は41.9%と大きく上昇。原材料である油、鶏卵の価格上昇が反映されたものと思われます。
冷凍調理品(ハンバーグ、冷凍麺など)
冷凍食品も軒並み値上げ。安定しているカテゴリもあるが…
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
冷凍調理品の購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると102.4%と市場規模は拡大しているものの、2021年5月と2023年5月の購入数量を比較すると89.1%と減少しています。このカテゴリでも、値上げによって買い控えが起きたものの、その減少分を値上げ金額が上回っているという状況になっていると考えられます。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
冷凍調理品の中の小カテゴリの平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。13カテゴリの内11カテゴリで10%以上の平均購入単価が上昇しています。
スープ類(レトルトスープ、冷蔵スープ、カップ容器入りスープなど)
同月比較では市場サイズが減退。盛り上がるシーズンでいかに山をつくれるかの勝負
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
スープ類の購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。スープ類は秋から冬にかけて需要が高まり、春から夏にかけて需要が下がる傾向があります。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると95.4%と市場規模が減少しており、購入数量も87.6%と減少していますが、秋冬の盛り上がりをいかに作ることができるかが重要なカテゴリです。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
スープ類のなかの小カテゴリの平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。レトルトスープは25%と平均購入単価が上昇しているものの、インスタントスープは3.6%の上昇に留まっています。
カレー・シチュー類
カテゴリ全体の購入金額はほぼ横ばいで、購入数量の減少も9割台
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
カレー、シチュー類の購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を2021年5月から2023年5月まで月別で表したグラフです。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると100.9%と市場規模は横ばい。購入数量は91.4%となっています。ここまで見てきた他のカテゴリーでは購入数量は10%以上の割合で減少していましたが、カレー・シチュー類においては減少の割合が小さくなっています。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
カレー・シチュー類の中の小カテゴリの平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。最も平均購入単価が上昇したものはシチュー レトルトの14.8%。他のカテゴリは1桁台の上昇率で、他のカテゴリよりも価格の上昇幅は少なくなっています。
アルコール(購入者数上位10種類)
購入数量の減少で、カテゴリ全体の購入金額も合わせて減少。酒税法の改正がどう影響するか…!?
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
アルコール(購入者数上位10種類)の購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると92%と市場規模は縮小しており、購入数量も85.1%と減少しています。アルコールカテゴリでは、2023年10月に酒税法改正が行われ、複数のジャンルにおいてその影響が発生することが予想されています。今後の動きが最も気になるカテゴリーのひとつです。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
アルコール(購入者数上位10種類)の平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。最も平均購入単価が上昇したものはウィスキーハイボールの18.7%ですが、他のカテゴリは1桁台の上昇率となっています。
※今回の購入価格の集計は、買い物をされる方の1商品あたり(JNAコード)の購入価格を集計したもので、1本あたりの単価換算ではありません。ビールカテゴリの1商品単位は、単缶、6本パック、ケース(24缶入)とバリエーションがあり、まとめ買いが起こりやすく、購入価格の金額が高くなる傾向があります。
粉物類(小麦粉、ホットケーキ/ミックスなど)
報道の影響も…? 金額・数量ともに最も減少している粉物類カテゴリ
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
粉物類の購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると83.6%と市場規模が縮小しており、購入数量も77.6%と大きく減少しています。
こちらのカテゴリでは、コロナ初期の巣ごもり特需によって需要が伸びたと考えられる商品を多く含むカテゴリです。そのため、特需状態となったところへ値上げなどの外的環境が加わって、減少幅が大きく見えている可能性があります。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
粉物類の平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。ホットケーキ/ミックスその他、から揚げ粉の平均購入単価が13%上昇していますが、他のものの上昇率は1桁台に留まっています。しかし、その価格の上昇率に対して、購入数量の減少幅が他のカテゴリよりも大きい状況です。小麦の一大生産地であるウクライナへのロシア軍侵攻という大きなニュースがあったため、値上がりのイメージが強くなってしまい、実際の価格値上げ幅を上回るかたちで買い控えが起こった可能性があります。また、前述したように巣ごもり特需によって需要が伸びたところからの需要減となっているため、減少幅が大きく見えているということもありそうです。
醤油(醤油、丸大豆醤油、減塩醬油など)
カテゴリ全体的に平均購入単価の上昇率がやや高めの傾向。
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
醤油(醤油、丸大豆醤油、減塩醬油など)の購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると94.7%と市場規模が縮小しており、購入数量も84.6%と減少しています。日本国内における醤油の消費量は年々減少傾向にあるとされ、その流れが反映されている可能性があります。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
醤油の平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。「醤油」が13.6%で最も上昇幅が高いものの、密封容器入り醤油、減塩醤油も10%近く平均購入単価が上昇しています。
パン類(食パン、菓子調理パンなど)
今回取り上げた10カテゴリのなかで最も購入数量の減少が少なかったカテゴリ
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
パン類の購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると105.7%と市場規模が拡大。購入数量は97.6%と、微減ではありますがほぼ横ばいとなっています。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
パン類の平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。フランスパン、食パンが10%強の上昇となっています。
パン類も10%ほど値上げがあったカテゴリであることは確かですが、購入数量は3.4%ほどしか減少していません。同じく10%ほどの値上げだった粉物類は購入数量が23%ほど減少しており、同じ程度の値上げ幅だったのに対し、購入数量の減少幅が大きく異なる状況が明らかになりました。
農水省の食生活・ライフスタイル調査(2021年)によれば、朝食におけるパン食の割合は34.3%と最も割合が大きく(米食は16.2%)、その食生活が定着した人にとって、パンは値上がりしても買い続ける対象になっていたのかもしれません。他方、粉物類は家庭での自炊の材料であることが多く、「購入しない」という選択をし易いカテゴリであったのではないかと考えられます。
ドレッシング(ローオイル、ノンオイルドなど)
今回取り上げた10カテゴリの中では最も平均購入単価が上昇していないカテゴリ
購入金額(百万円:左軸)、購入数量(万個:右軸)の月別変化
ドレッシングの購入金額(青色)と購入数量(オレンジ)を月別で表したグラフです(21年5月~23年5月)。2021年5月と2023年5月の購入金額を比較すると93.1%と減少しており、購入数量も同じく88.4%と減少しています。しかし両項目とも、最も低かった2023年1月から上昇傾向にあります。
小カテゴリの平均購入単価変化(2021/05-2023/05比較)
ドレッシングの平均購入単価の比較表(21年5月 vs 23年5月)です。最も平均購入単価が上昇しているドレッシング(ローオイル)でも10%以下の上昇となっていて、今回取り上げた全10カテゴリのなかでは最も平均購入単価が上昇していません。
にも関わらず、購入金額、購入数量ともに減少してしまっています。ドレッシングは他の調味料などで代替でき、さらには家庭でつくることもできてしまう商品であるため、他のカテゴリの商品値上げをうまく家計におさめるために、ドレッシングのカテゴリ全体が買い控えの対象になってしまっているのかもしれません。
まとめ
- 値上げの影響はカテゴリの状況によってさまざま
- 生活への定着具合が影響することもある
- 代替可能なカテゴリは買い控えのターゲットになってしまう傾向も
ここまで値上げの影響を見てきましたが、ほとんどのカテゴリに共通して、平均購入単価の上昇で購入数量が減少する傾向が見えました。しかし、カテゴリの総売上が減少するかどうかは、値上げ幅がどの程度であったかによって変わってきています。
また、カテゴリ間で比較を行ってみると、同程度の値上げ幅であったのに対して購入数量や総売上の下がり幅に大きな差が出てきているカテゴリも存在します。これは、報道などの影響で「値上げ感」が消費者のイメージに強く定着してしまった可能性や、代替可能なものであったために買い控えの対象になったと考えられるカテゴリにおいて顕著です。
これらの状況に対し、
- 定着していた消費者を逃さないためのリテンション施策
- 売上を落とさないためのプライスマーケティングの検討
など、コミュニケーション施策はもちろんのこと、より売り場/消費者に近いタッチポイントでの施策拡充が求められる状況が続くものと考えられます。